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リネンや麻を織る日々をつづっています。

リネン日記

越えた人

2018年11月02日

人が出来ているなあと思えたのが、数年前に廃業された機屋さん。一人で最後仕事をやっておられて自分の葬式の準備までノートにまとめて、それを見れば自分の葬式が形になるように。奥さんも高齢で動けなくなっておられて、仕事できる時間も限られておられ奥さんの面倒をみるためにまだまだ動けるのに廃業に到られたのだと思った。お客さんが困るので、織機を私に譲りたいというお話があって、私も自分自身の仕事で手一杯な状況ではあったけども、たぶん、その織機を動かせるのは私以外にはいないだろうと思ったから引き受けさせていただこうと思った。

その方は私がお客さんの面倒をみられるように願っておられたが、途中、他の人が何人も入ってくると話がややこしくなって、その工場の織機を受け入れることは断念し、もうひとつ工場が廃業されるのでそちらの織機を入れることにした。私自身、林与が50年前にやっていた織物の世界だったので、私自身は経験はなかったが、残したいなあと思った。また、そういう半世紀も昔の技術を残しておられることも、技術我というよりも、その方の考え方が凄いのである。考え方に行動が伴って技術が生きる。

そういう方というのは本当に稀であって、仕事に対して正しくて前向きだったのである。足元をみてぶっかけるようなこともしないし、また、誠意がある。いわゆる自分の甲斐性をわきまえた方であると思えた。みんな、自分の甲斐性を考えずに、人の甲斐性に甘えようとするのが一般的な商売になりつつある。一般的には、繊維の現場の世界では、仕事を嫌がったり面倒がったりする人が多い中で、そういう人に出会えたのは新鮮であった。最後の最後まで、地道な仕事で会社を健全に経営されて自分でその会社を閉じられた。立派だなあと、尊敬するのである。技術面に特化されていて毒されていなかったからなのかとも思えるのだが、そういう仕事でも継承しようとすると壁は大きいのを感じる。

取り巻く環境がそういうのを継承できるような状況ではないのである。非常に特殊な和装用の織物で、良質の糸を使って1時間に1mほど高度な織物。卸値段を聞くとびっくりするくらいに安くて1mが600円とか、ふた幅取りするので2倍の1200円としても、その方だから成り立ったような商売なのである。触るとマイナスに終わる世界。私も覚悟決めていたので商売としてはまったく考えていなかったが、あの織機は普通だと譲り受けたとしてまともに動かないだろうと思う。動かしたとしてもキズだらけでマイナスで終わる可能性も高い。綿なら織れるだろうけど。麻で織るには相当な調整が必要。林与の今のレピアジャガード織機でも手を加えれば同じことができないことはないのであるが、レピアの場合開口の問題などで麻では難しいだろうと思った。


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