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リネンや麻を織る日々をつづっています。

リネン日記

それなりには

2019年04月11日

私の先代もそれなりには仕事はしてきたとは思うが、実際に自分が仕事をして正しいものがつくれるのかというとその辺りがなかなか難しい机に座っての商売型の経営者タイプ。私自身、そういう経営者タイプというのは存在すらもが今の時代には無駄で通用しないと思っているので、経営者たるもの自分が指図をするなら現場の人がする程度のことくらいは当たり前にこなせないと駄目だろうと思う。これは自分だけでなく、ものづくりするチーム全体として一つの企画の達成のために関わる全員ができることをフルに動けないと駄目だろうとは思う。

実際に私が作業全体をできる部分があって織物をつくり続けていられるんだろうと思う。私が作業全体をできなければ、人が少なくなったときに自分で織るのもできなくなって産元的な織物企画会社になってしまっていただろうと思う。林与も出機さんで織物を織っていたこともあったが、出機さんでは縦が何百メートルとか千メートルの一番量のまとまった仕事ばかりを常に頼んでいたので、出機さんでは対応が難しいと思われる手間の掛かる仕事や、小さい仕事は自社内でこなしてきた。高度な仕事ほど負荷が掛かるというのは分かってもらえるかもしれないが、小さな仕事の繰り返しほど負荷が掛かるものであったりする。一般的に、アウトソーシングという意味では、ふつうは逆に手間の掛かることを外部に任せるのだろうけど、本当のものづくりというのは面倒な部分をちゃんと自分たちでこなしてゆくでよいのである。

よくお客さんはオリジナルの生地がほしいのでサンプルをまず見せてほしいといわれることがあるが、サンプルを作ることは量産を想定すれば量産よりも負担が掛かることが多いのである。織物規格を決める必要があるし、染めるだけでなく色ビーカーも必要だったり、機をつくる必要もあったり、そのサンプルのために機の載せ替えをすれば、サンプルが終った後にまた機を戻さないといけないなど。人員的な面でも量産の仕事の手を止めてサンプルの作成に人員を使わないといけないので、一つサンプルをつくる間、すんなりいったとしても実質1週間ほど会社の生産がストップしてしまうことも多い。

学校なんかで手織りで勉強した人が、手機でサンプルをつくることがあるけど、手機というのは量産の織機とはまったく構造が違うので、手機で織った凝ったものを動力織機で量産しようとすると多くの織れない問題に直面する。毛足の長い特殊糸を使っているとかは致命的で、手織りだと毛足の長い意匠糸も織れるが、動力織機だと開口のときに、毛足が開口の邪魔をしてキズだらけで織物にならないとか、根本的に糸から考え直さないといけない問題が生じてくる。あとラメ糸なども非常に細いものが多いので、糸切れのフォークやセンサーが反応しないなど、人がずーっと動く織機の横糸が切れないかを見続けていないといけないとか。縦糸も手織り機にはドロッパーがないので、緩んだ縦糸でもサンプル程度なら織って形になるが、実際の動力織機に載せたときには組織の設計が糸緩みを計算できていないと、組織の甘いところの糸が緩んできて縦糸がすべてボツになってしまうとか。

学校でも食べて行く想定ならば、手織りもしながら、動力織機を導入して基本作業とすればそういう問題は解決するのだろうけども、そこまでできる織物学校というのもなく、どうしても頭の中の織物設計や規格、ならびに1点ものづくりがクリエーションということになる。問題に直面したときに、そういう問題をクリアするためには企画する人以上の解決能力が現場には求められ織機の調整ではどうにもならない問題も多い。

一例では、テンション差、同種類の同じ番手の麻糸でも、色糸と白い糸では糸の性質が異なることが多く、糸の設計や染めのチョイスに自由度や調整が入っていなければ染まった糸というのは糸が硬くなり伸び度が落ちやすい。縦糸切れを直すためにソウコウの間に手を入れると隣の糸が壊れるようにぽろぽろ切れるとか、昔だったらありえない問題が今の糸には存在する。何年か前には100m織るのに3ヶ月以上一つの企画ので費やしたことがあって、その糸の問題ために織機の個体差に掛けて、4回も織機を載せ替えした。でも結局は、それほどまでに問題のある糸は織機の構造の限界を超えていて、奇跡的に新しい織機の導入で解決ができ織ることができたのである。その年には、6ヶ月解決に掛かった問題も同様の問題。もう一つの仕事も100m織るのに1ヶ月とか。細番手の縦糸の縦糸の3つの問題で苦しんだ数年前の1年。

普通だと支給の糸だったので糸が織れないと3つとも断る仕事だったのだろうが、お客さんが困る話だろうから、すべてを捨てるような覚悟で乗り越えた。そういう糸というのは、糊をつけていない状態で横糸としてノーテンションで織っても物性が異なり、白糸と色糸では3cm以上も織幅が異なるなど。自社企画で受けた仕事なら、こういう1回の糸の問題でワンマークの納品ができず織物工場が潰れてしまうほどのダメージもあるだろうと思う。私は他の人の企画でもそれなりに努力はするけど、こういう問題は織機の調節では解決が無理なレベル。それでも奇跡的にそんな織機の調整では織れない糸も織ることが巡り合わせ的な要因でたまたまでき、その一年を乗り越えることができたのである。1年で3つも糸の問題で織れない仕事があると経営が難しくなるだけでなく、普通は、次から同様の仕事も受けてうまく行く自信も無くなり織るのも危なそうな仕事は断る話になるだろう。

こういう仕事も私が現場に入って自分で問題をみていたので最終的には原因も糸の問題だとわかり、解決ができたんだろうと思う。他の人に任せていたら織れないという結論で終っていただろうと思う。シャトルのドビーの織物にしても、横糸切れの処理が普通よりも複雑なので他の人ができないから私が織るということが多い。そういうときに自分だと解決ができるのが強みで、私が普段ほかのものに任せて織っていなくても、普段織っている人が織れないものでも当たり前に織るのを見て、織っている者が、私に織れるといわれたものが普通に織れるんだということを知ることも多いのである。織物経験が長くても基本が正しくなければ織物は織れないことも多いので、そういう基本が正しくない問題に至る考え方から変えてゆかないとならないのも、最初にあげた先代の問題にも共通するところなのである。


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