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リネンや麻を織る日々をつづっています。

リネン日記

手績糸の背景

2011年01月16日

弊社に残る手績糸は、昭和25年、26年の新聞に包まれていますので、そのころの糸だと推測いたしますが、ちょうど戦後24年に麻製品の統制が解除されたときに作られた糸ではないかと暫定的に思っています。「きぬあさ」と銘が箱にうってあります。まさに、「きぬあさ」と呼ぶにふさわしく、手績した糸の状態で、今もシルクの生糸のようにピカピカしているのです。

昭和40年ころまで手織の近江上布を生産しながらも26年ころの糸が残っているというのは、これまた不可思議なことです。100年以上続く、林与特有の手に入らなくなるものは大事にとっておくという傾向ではないかと思います。戦後の近江上布というものは、そのほとんどが紡績糸を使用していたのだろうと考えます。戦後のごく短い間に流通したものが林与には残っているのだと思うのです。手織り用の達磨マークの糸も僅かですが残ってはおり、その完璧さがあってこそ、他とは別格の本麻の織物が出来上がったのだと思います。

麻の細番手で、120番手、140番手クラスの糸なのですが非常に均一で完璧すぎるような仕上がりの「きぬあさ」と呼ばれる紡績糸も残っているのですが、これも戦後の手織りの時代に呉服用につくられた糸で、白絣などの繊細な織物を織るのに使われたと聞いております。こちらも今年の試作テーマの一つにしてありますので、なんらかの形になってくるものと思います。

私自身、自分が生まれていないころの麻織物の歴史に触れることは非常に不確かな部分が多いのですが、親戚の90歳近くの昔林与の近江上布を織って下さっていたおばあさんにお話を聞いても、あまりに普通に仕事をしすぎていて、一つ一つの工程のことを覚えてはおられないのです。でも、機があれば今でも器用に動かしてくれると思います。このことは「職人」さんというものの性質なのだと思います。一旦、現場から離れてしまうと全てが過去の世界になってしまうのです。職人さん自身にとっては、自分の過去に手がけたものが振り返れないことが多いと思います。仕事を始めたときに私の作業の補助をしてくださった伝統工芸士の勘一じいさんも、昔の仕事の話を聞いても細かなところは忘れられてしまっていました。


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